子どもが消えるとき


子どもが消えるとき

1 貧困のはてに―ホームレス状態で消える

一つ目は、行政のネットワークだけでは居場所をつかみにくい事例、路上生活や車上生活などホームレス状態に陥っている子どもたちのケースだ。居所不明問題でよく言われる、DVなどで保護者ともども住民票を移さず他の自治体に逃げた結果消えるケースであれば、引越し先の行政とつながった段階で情報をやりとりする仕組みの構築など、改善の余地はある。しかし、そもそも保護者が借金といった経済的な理由などを抱え、逃げた先で行政とつながろうとしないケースは対応のしようがない。

「コンビニで廃棄されたものを拾って食べていた。公園やマンションの片隅で寝泊りしていた。体格がとても小さく背骨が曲がっていた」という中学生もいた。

また、幼い兄弟が「自動販売機の裏で寝ていた」という回答もあり、どういうことかと取材をすると、自動販売機の裏はずっと電気が点いていて暖かいため、冬場の夜間はそこで暖をとって寒さをしのいでいたというものだった。

他にも、河川敷で暮らしていて、繰り返し虫にさされた痕が、保護されたあともなかなか消えない女の子、ホームレス状態になった父と野宿していた男の子もいた。親の借金による車上生活で、日中はパチンコ店で落ちた玉を拾って親に渡す生活だったという兄弟。同じく車上生活をしていた小学生は、公園で洗顔をしていた。

2 虐待・ネグレクトによって消える

二つ目は、自宅にいるにもかかわらず、親が囲い込むことで社会との接点を絶たれるケースだ。既に述べたように、これまでの国の調査では、家族と連絡がとれている場合は「居所不明」とは見なされず、また、不登校との見極めの難しさから見逃されてきた。

アンケートでは、学校の教員などの訪問時に親が、「子どもが会いたがっていない」「親戚の家に預けている」「子どもの体調が悪い」などと嘘をつき、その裏で親が子どもを自宅に閉じ込めていたり虐待をしていたりしたケースが多くあった。(中略)

「母に家に置き去りにされ、万引きをして飢えをしのいでいた」という小学生は、学校の先生が来ても居留守を使ったり、「親は夜になれば帰ってきます」と嘘をついたりしていたため、不登校だと思われていた。教育への意識の低さからくるケースもあれば、外に出たら「絶対にひどいいじめにあう」「感染症になる」と親が妄信して閉じ込めるケースもあった。

3 精神疾患の保護者と消える

パターン2のように、家にいるのに消えるケースのなかには、保護者自身がSOSを出せないケースも目立った。保護者の精神疾患や障害によって子どもが徐々に社会から消えていくパターンである。

経済的に困窮して働き詰めとなったひとり親が、うつ病などの精神疾患となり、育児も家事もできない状況に陥り、洗濯も入浴もままならなくなる。子どもは不衛生になり、学校に行っても「臭い」などと言われていじめられ、家にこもるようになる。しかし親はそれを改善して送り出してやることもできない。そのうち家はごみ屋敷のような状態になり、親子ともに困っているのに誰にも助けを求められないまま孤立していく―。こうしたケースは少なくなかった。

学校に行かせてもらえず、母親のリストカットを見ていたという小学生のケース、ごみだらけの部屋で幼い女の子が食料の買出しを行い薬づけの母の世話をしていたというケースもあった。

施設から寄せられた回答では、不登校の児童や生徒が17万人を超えるなかで、「不登校なのかネグレクトなのか、家庭の事情に深入りできない」「本人に会えないだけでいきなり強制的な介入には踏み切れない」など、家にいることがわかっているにもかかわらず、子ども本人に会えない場合の対応の難しさを指摘する声が相次いだ。(中略)

自由記述欄には、教員に限らず、必ず行政機関の誰かが子どもの姿を現認する必要があるという意見があった。その訪問作業を通じて、子どもが困っているのは「学校には行きたくない」からなのか「行かせてもらえない」からなのか、そして保護者自身も経済状況や就労、疾患、育児で困っているのではないのか、その裏側を確認しなくてはならないと強く感じた。